約束の海 / 山崎豊子


山崎豊子約束の海」を読みました。


約束の海 (新潮文庫)

約束の海 (新潮文庫)


国民作家が遺した最後の傑作長編小説」という謳い文句が魅力的で手に取った小説です。
この「約束の海」の第一部を全て読み終えた時の衝撃は、計り知れないものがありました。


約束の海」は、28歳エリート自衛官の一生を構想した作品です。
第一部では、潜水艦「くにしお」が日本海域での訓練を実施する所から始まる。
自衛隊の業務は、「国防」であり、他国からの侵略、脅威から日本国民を守るべく、日々の業務に取り組んでいる。
しかし、主人公・花巻が乗る潜水艦「くにしお」が、観光船との衝突事故を起こし、世間に「自衛隊不要論」が巻き起こる。
花巻も内心、どうして良いか分からず、自衛官を辞めることを考えたのだが、突然、ハワイでの研修を命じられ、自衛官としての責任の重さを知ることになるのだった。


さあ、ここから面白い展開が始まろうとした時、


第一部完」。


その直後に筆者・山崎豊子が亡くなられた旨が記載され、衝撃を受けました。


未完の作品となった「約束の海」。


この後、どのようになるのかは、読者の推測に任せる形になってしまいました。


しかし、一番感銘を受けたのが、この「約束の海」にある影の人間ドラマが、物語の後に書かれている内容でした。


山崎豊子自身は、この「約束の海」を書く以前から、何度も、もう作品を書かないと言っており、断る姿勢を見せていたそうです。
その決意を当時、編集長へ伝えた所、「スポーツ選手には引退はあるが、芸術家には引退はない」と、突っぱね、「書け!」と伝えたそうです。
その後、引退すると言った人物とは思えぬパワーで「沈まぬ太陽」を書き終え、ホントの最後に書きたいと言われたのが「戦争」というテーマした作品「約束の海」だったそうです。
約束の海」を書くことになり、参考資料を探した時、偶然にも「約束の海」のテーマにピッタリ合う資料があり、資料として送った所、編集者の欄に「芸術家には引退はない」と言った編集長の名が書いてあったそうです。
その時、すでにその編集長は亡くなっており、「死して、なお書けというのか!」と、「約束の海」に携わる人を奮い立たせたそうです。


これが最後」という作品が未完のまま終わってしまい、周囲の方は最後まで出したかったという想いが伝わる一冊でした。


この「約束の海」は、「作品の本編」と「作品に関わる人」の2つのドラマがある小説でした。